« 『アイダよ、何処へ?』 | トップページ | このごろのこと »

2021年10月16日 (土)

ディック・ブルーナの仕事場

小雨です。
傘がなくとも、まぁ大丈夫かというていどです。朝から書籍に関する作業をするつもりでしたので、空の調子はほどよいかも。晴天だと、外を歩きたくなってしまいますので。
書棚の本を抜き出して引用カ所をさがす、またはたぶんコピーしていたであろう紙資料を引っかきまわさいといけない。こういう「さがす」はわりと得意でないーーかもしれません。

またぶちが、部屋まであがってきました。さきほど、ドアの外でブッフッフと鼻を鳴らす音がしました。開けてみると、案の定つっ立っている。ここに来ても寝るだけだから、下にいるのと変わらないのに。
しかもここは、屋根のましたですから、夏は暑くて冬は寒い。
ここに越してきてからは、小さな机を椅子の前と後ろに置いています。ドアに向いたかなり狭い机にMacPC、比べてやや広い後ろ側には色鉛筆や筆などの画材。椅子を180度回させて、手書きの作業は後ろでやるのです。ぶちは机と机の間、椅子の足もとで寝てしまう。じゃまです。

書棚の一番下(ここは背高本の居場所)、一角に『芸術新潮』の古いものが詰まっています。背表紙を探したら、「特集 おとなのためのディック・ブルーナ入門」の文字がすぐに見つかりました(2004年3月号)。わたしは、おなじみのミッフィーのファンじゃないけども(もちろん嫌いじゃないよ)、この号で紹介された生前の仕事場の感じが好きで、たまに見返します。
ユトレヒト旧市街の小さな通り、築300年の建物の3階の屋根裏部屋は、天井がほどよく高い。観音開きの窓はさほど大きくないのですが、天窓もあって光がよく注ぐ。ひとつ気づきました。すわると頭ぐらいの高さに位置するその天窓を背に、彼のさほど大きくない机が置いてあります。文章作りに愛用するタイプライターを置いた別の小机はといえば、窓(天窓ではない窓)に向かってすわる向き。「描く」「書く」では、光の受け方が真逆でした。この配置には、きっと理由があるのでしょう。机や椅子、デスクライトはシンプルでどれも趣味がいい。
壁にはメモやいろいろなデザイン画が止めてありますが、雑然とも整然ともしていません。売れっ子デザイナーでしたが、彼はアシスタントを使いませんでしたから、この空間はまさしく彼ひとりの世界です。椅子にすわるブルーナ当人の姿が、この空間に溶けています。
この特集がすごくいいのは、ブルーナの自転車を2ページにわたり紹介していること。最初の1ページは、ぜいたくにも自転車だけを撮影した1枚の写真のみ。2ページ目に自転車を引くコート、マフラー姿のブルーナがいます。自宅から仕事場まで15分の距離を毎日彼は、この自転車で通うのだそうです。頑強でレトロ観漂う愛車は、イギリスのラレー社製。40年以上も乗っている(取材時は76歳)。2枚目の写真のエピソードがまたいいのです。
仕事場を訪問するアポイントを翌日にとっていたスタッフがユトレヒトの街を歩いていると、味のある自転車がわきを通りすぎていく。
「え、いまのブルーナさん!?」
とっさに声をかけて撮った一枚がこれなのだそう。
そのとき彼が言ったという。
「あれを背景に入れたどう?」
写真のストリートの奥に街のシンボル的な存在であるゴシック様式のドム塔が見えます。

デザインで世界的な成功をおさめたけども、彼は自分の手仕事を事業にはしませんでした。ずっと、描いたり、切ったり貼ったりと、手を動かしてグラフィックデザインをつくった。自転車で朝早く屋根裏の仕事場にやってきて、夕方早くに切り上げました。わたしにとっては、理想的な暮らしのスタイルをとおした人。


|

« 『アイダよ、何処へ?』 | トップページ | このごろのこと »

考えごと」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 『アイダよ、何処へ?』 | トップページ | このごろのこと »